ポストに届いた一通の手紙
少しまるくて優しい感じのする字を見た瞬間になつかしさがこみ上げました。
『佐藤先生だ!!』
それは渓太郎の主治医だった佐藤先生からのお手紙でした。
封を開くと、便せんの一番上には宛名が書かれていました。
『中村美幸様、そして
渓ちゃんのお母様へ』
『渓ちゃんのお母さん・・・』
もう誰からも呼んでもらうことがなくなった呼び方・・・。
それを見た瞬間に、
「私はいつでも渓太郎をだっこしている、渓ちゃんのお母さんだったんだ」と、
渓太郎のあったかい温もりがよみがえって涙がこぼれました。
お手紙の中には、
「いのちの時間」を読んで、鮮明に当時のことが思い出されたということや、
私の14年間をねぎらってくださる言葉、
今でも子ども病院での経験を大切にしながらお仕事をされている様子が書かれていて、
「渓ちゃんをはじめ、ご家族、周りの方は本当に幸せです」と書かれたあとには
「私も幸せを感じました」とありました。
私が
「闘病生活が教えてくれた大切なことを多くの方に伝えるにはどうしたらいいのだろう」
と考えていた14年間は、
佐藤先生にとっては
「医師としてあるべき姿を忘れてはいけない」と、
子ども病院でのことを活かし続ける14年間でした。
そして、
私のつらさも、悲しみも、よろこびも、幸せも一緒に分かち合ってくださった先生は、
私がようやく「幸せって・・・もうすでに自分の中にあったんだ」とわかったあの瞬間も
同じように「幸せ」感じてくださっていたのだということを知りました。
なつかしさとうれしさで、涙を流しながら手紙を読む私を見ながら
渓太郎がニコニコと笑っている気がしました。